月刊人事労務

特集:いま注目される「組織開発」とは?

1.「組織の悩み」増量中?

私たち社会保険労務士は経営の中で「ヒト」に関する専門家です。日々お客様から「ヒト」に関するご相談が多く寄せられます。最近特に多いと感じているのがいわゆる職場でのハラスメント、いじめ・嫌がらせの問題です。「営業課長のAさん、仕事は非常にできるのですが、部下を非常に強い口調で叱責するので彼の元では退職者が多く困っている」「ベテランのBさんは新人Cさんが挨拶をしてもわざと無視している。そのことで職場の雰囲気が非常に悪い」こういう相談が今非常に増えています。みなさんの職場ではいかがでしょうか。なんとなく職場がギクシャクしているなぁ、うまく行っていないなぁ、と感じている方も多いのではないでしょうか。あるいは「うちの職場は大丈夫」という方もいらっしゃると思います。しかし職場の「ヒト」の問題が全くない、ということはないのではないでしょうか。

「自分の職場をもっとよくしたい」「職場の仲間と仲良く楽しくバリバリ仕事をしたい」「でもそのためには何をしたらよいのかわからない」そういう想いを抱いている方、組織の問題で悩む方にヒントを与えるのが「組織開発」です。

2.「組織開発」って何?

さて、「組織開発」とはなんでしょうか。いろいろな定義がありますが、私は「うまくいっていない職場や組織をどのようにすればよくしていくことができるか、そのために何をしていけばよいのか、という手法や取り組みの総称」と考えています。いわゆる「職場活性化」「組織活性化」とほぼ同じ概念と考えてよいでしょう。

ですから、「組織開発」というのはひとつの手法ではありません。職場を活性化するための手法にはいろいろなものがあります。例えば「コーチング」「ファシリテーション」「オフサイトミーティング」「1on1ミーティング」などです。これら組織の問題を解決するための様々な手法のひとまとまりに付けられた「ラベル」が「組織開発」です。例えるなら「野球」「サッカー」「ラグビー」「テニス」をひとまとまりにして「球技」と呼びます。様々な個々の競技の総称として「球技」と呼ぶように、様々な組織を活性化する手法や取り組みを総称して呼ぶのが「組織開発」ということになります。英語では「Organization Development 」略して「OD」と呼ばれています。

3.日本企業で組織開発に取り組む会社が増えている

組織開発は1950年代にアメリカで誕生しました。その後欧米中心に発展してきましたが近年組織開発に取り組む日本企業が増えています。外部コンサルタントの指導を受けるだけでなく、組織開発の手法を自社の社員に学ばせて社内コンサルタントを配置し内部から組織を変えていく取り組みを積極的に行っています。

組織開発に取り組む企業が増えている理由として近年の環境の変化により職場の社員同士が信頼し、協力し、前向きに働くことが難しくなっているためです。主な原因として次のようなものがあります。

(1) 一人で完結する「個業」の増加

ひとりひとりに責任を持たせ各自が分配された仕事を行う、いわゆる「個業」というスタイルが増えています。うまく行けば達成感ややりがいが得られるというメリットもある一方で、仕事を抱え込んでしまう、上司や同僚のサポートが得られにくくストレスや長時間労働に繋がるなどのデメリットもあります。

(2) 働く人の多様化

高齢化、採用難、非正規雇用の増加、女性の社会進出、障がい者雇用の促進、外国人労働者の増加など、職場で働く人の多様化が加速しています。このため、年齢、性別、国籍、障がいの有無、雇用形態の違いを乗り越え、言葉、考え方、仕事の進め方、価値観の異なる職場の仲間と力を合わせていかなければなりません。多様なアイデアが生まれやすいという利点がある一方、人間関係やコミュニケーション面の課題も多くなっています。

(3) 働き方改革、業務効率化、在宅ワーク等の影響による対話不足

働き方改革の推進により、時間外休日労働の削減、有給休暇取得促進、在宅ワークの普及などにより労働時間が削減され過重労働が改善される一方、職場におけるコミュニケーションが不足する、またはメールやチャットによるコミュニケーションが中心になってきます。コミュニケーションの内容が仕事中心となりいわゆる「雑談」の時間は減少します。その結果「気持ち」「感情」を含めた意思疎通が行われにくくなったことにより人間関係の質が低下する現象が私たちの職場で起こっています。

職場を取りまく環境の変化により従来のマネジメント手法ではチームワークを保ち仕事の生産性を向上させることが困難となってきています。このような状況の中、職場でのチームワークを高めメンバー互いの協力関係を築き生産性をあげるため、組織開発が注目されているのです。

4.組織開発の考え方

(1) コンテントとプロセス

組織開発でキーとなる概念が「コンテント」と「プロセス」です。コンテントとは職場の問題の中で「目に見える部分」です。職場で何が取り組まれているかという

具体的な課題、会話の内容、仕事内容などがコンテントにあたります。

一方組織開発で言うところの「プロセス」とは問題の「目に見えない部分」です。職場の関係性、風土、メンバーの参加度合、気持ち、リーダーシップの状況などがプロセスにあたります。

コンテントとプロセスはこのような氷山図であらわされます。会議などでは会議の内容(=コンテント)に目がむきがちです。一方「発言しやすい雰囲気か」「会議への参加への気持ちの度合」「お互いのコミュニケーションの状況」(=プロセス)には目が向かないものです。しかし、会議の決定事項の質、満足度、決定事項が実行されるかは水面下に隠れたプロセスが影響します。組織開発ではこのプロセスの改善を重視します。

コンテントとプロセスの説明図

(2) 組織開発の四つの価値観

組織開発で大切にされている四つの価値観を紹介します。

(イ) 人間尊重の価値観

人間な基本的に善であり、最適な場が与えられれば、自律的かつ主体的に力を発揮する。

(ロ) 民主的な価値観

ものごとの決定には関係するできるだけ多くの人が参加し関与したほうが決定の質が高まり、関与した人々の関係性を強化する。

(ハ) 当事者中心の価値観

組織(職場)の当事者が現状・変革にわがこととしてかかわること、当事者意識と主体的に取り組む姿勢を重視する。

(ニ) 社会的・環境システム志向性

組織(職場・会社)の視点だけでなく、より広いシステムである社会や環境レベルを考慮する。

(3) ユーズ・オブ・セルフ

通常の組織変革では、評価制度やリエンジニアリングなどのノウハウを重視します。しかし組織開発では、プロセスに気づく力や自分自身の価値観を用いて変革に取り組みます。このために組織開発実践者の自己成長が大切である、という考え方です。

(参考文献)
「入門組織開発」(中村和彦著、光文社)
「マンガでやさしくわかる組織開発」 (中村和彦著、日本能率協会マネジメントセンター)
(当社ニュースレター「月刊人事労務」vol.199 2021年12月号特集)

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